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クソログ

愛は、誰を救えるのだろうか?孤独という、あの深淵から……

死のうと思っていた

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「ニンジャニンジャ、ニンジャきたよ──ッ!!」

駅へと向かう途中、線路をまたぐ歩道橋でそんな声を聞いた。
保母さんが30人ほどの子供を連れていた。

保母さんは異次元に迷い込む。
なぜなら、子供の世界と大人の世界はまったく違う論理で動いており、子供同士は子供の論理で、大人同士は大人の論理で通じ合っていくけれど、保母さんはその境界線上に立っているからだ。
大人でありながら日常的に子供と接する。
完全に子供になってしまってはいけないが、ある程度は子供にならないと、子供と通じ合うことはできない。
そのような板挟みの状態が、保母さんを奇妙なテンションに変えていくのだろうか。


保母さんは、遠くから走ってくる電車を指差して叫んでいる。

「ほらっ、ニンジャニンジャ!! みんなっ、こうやってこうやってっ! ニンジャだよニンジャだよ!!」

一般的な成人女性なら、酒を浴びるように飲まないと実現できそうにない、未曾有のハイテンションである。
保母さんは手を胸の前で組んで、人差し指を立てる。いわゆる忍者のポーズである。


「わーーーーーーっ!」

子供たちは嬉しそうに忍者のポーズを真似て、とたとたと走りまわる。
全員が全員ニコニコしている。
そこにはどんな憎しみも苦しみもなく、ただ無垢な歓びだけがある。


電車が歩道橋の下を走りすぎる。


「ほーーーーらっ、ニンジャニンジャ、ニンジャいっちゃうよ──ッッ!!!!!!」


保母さんは、盆と正月とリオのカーニバルが一緒にやってきたようなハイテンションで叫ぶ。
電車が通りすぎる際の轟音にすら、その声はかき消されていない。


「ニンジャいったねーーッ! いっちゃったねェェェェ──ッッ!!!!」


保母さん、テンションが上がりすぎてセクシーに到達している。
だが笑ってはいけない。
子供たちのあの楽しそうな顔を見よ。
あれがすべて、この保母さんのおかげなのだ。

この件について推測すると、電車とニンジャって、語感が似ている。

たぶん、それだけだと思う。それ以上でもそれ以下でもないと思う。
それだけの理由で、おそらくこの保母さんは、電車を指差してニンジャと言って、子供たちと供にニンジャのポーズをして走り回っている。
もちろん、こんなのは、大人の論理ではまったく通用しない。
電車とニンジャの語感が似てるからって、なぜ電車が通るたびニンジャのポーズで走りまわらなければならないのか。
そんな暇があるのならもう少し世界情勢にでも目を向けてみたらどうだね。
きっと上司にそんなことを言われて終わりだ。
だが、子供にとってそれは自然な行為である。
電車とニンジャの語感は似てるし、だったら電車が来るたびニンジャの真似をして走り回れば最高に楽しい。
その証拠に、子供たちはこの唐突な保母さんのニンジャコールに、示し合わせたように同じ行動をとっていた。
それはどう見ても日常的に行われている行為だった。
おそらく、この保母さんは、電車が通るたび子供たちと、このニンジャごっこをやっている。
明日死んでもいいようなハイテンションで。

僕はうつむいたまま、背中に、「ニンジャ!! ニンジャ!!」という嬉しそうな声を聞きながら駅へ向かい、ニンジャの集団を後にした。

夏まで生きていようと思った。